オーナー経営者に向けた事業承継戦略
事業承継はオーナー経営者にとって、人生と資産に関する極めて重要な決断です。その成功は、単に次の世代へバトンを渡すだけでなく、築き上げてきた企業の永続性と、ご家族の将来の安定に直結します。
オーナー経営者の資産構成は特殊であり、その大半がご自身の会社を支える非上場株式に集中しています。この株式は、事業継続の鍵であると同時に、相続財産の大部分を占めるため、後継者以外の配偶者、ご子息、ご令嬢のことも深く考慮し、極めて慎重に承継を検討しなければなりません。
当事務所では、こうした複雑な課題を解決するために、税務、法務、そして親族間の感情に深く配慮した知見を結集し、以下の「3つの柱」を標準としたフルオーダーメイドの事業承継戦略をご提供しています。
I. 特徴1:相続の円満化(「争族」リスクの回避と遺留分対策)
1. 自社株集中による「争族」リスクの本質
オーナー経営者の資産が非上場株式に集中しているという構造は、後継者以外の推定相続人との間で、将来的に「争族」(相続争い)を引き起こす最大の要因となります。事業継続の観点から、後継者への株式集中は不可欠ですが、株式の価値が高いほど、他の相続人に対する資産の偏りが大きくなります。
民法が定める「遺留分」(兄弟姉妹を除く法定相続人に保証された最低限の遺産取得割合)の算定の基礎となる財産には、この非上場株式も含まれます。もし自社株式の評価が高すぎたり、対策が不十分だったりすると、後継者が株式を承継した後であっても、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクが顕在化します。
この請求への対応の一例として、後継者は他の相続人に金銭等を支払う必要が生じます。これにより、後継者個人の資金繰りが圧迫され、最悪の場合、事業の安定性そのものを揺るがしかねない事態に発展します。
2. 親族間の感情に配慮した公正中立な戦略
当事務所が最も重視するのは、親族間の「公平感」と「納得感」の醸成です。
事業承継計画においては、単に「誰に株式を渡すか」だけでなく、「株式の適正な価値をいかに把握し、他の相続人の納得を得られるような代償資産をどう手当てするか」という多角的な戦略が不可欠となります。
当事務所は、公平中立な立場から、後継者以外の推定相続人への配慮を以下の手法を用いて総合的に検討します。
- 代償財産の確保と配慮: 株式の価値に見合う金銭や不動産などの代償財産を、生前に準備・整理します。
- 生命保険の活用: 受取人固有の財産である生命保険金を活用し、相続発生時に後継者が遺留分対策の資金を円滑に得られるように設計します。
- 法的な制度の利用: 種類株式の活用や、遺留分に関する民法の特例(遺留分算定の基礎となる財産から除外する制度)の利用可否を検討し、後継者への株式集中の確実性を高めます。
これらの対策を組み合わせることで、相続の円満化を図り、後継者が事業に集中できる環境を整えます。
II. 特徴2:税負担の最適化(最新の評価実務とリスク回避戦略)
1. 非上場株式の評価における裁決・判例の影響
事業承継対策の成否を分ける根幹にあるのが、非上場株式の「評価」です。非上場株式の評価は「財産評価基本通達」に基づいて行われますが、最近では、この非上場株式の評価について、実務に与える影響が大きい裁決や判例が立て続けに下されています。
例えば、税負担の軽減を意図し、非上場株式の「評価」を引き下げる施策を行い、「財産評価基本通達」による評価額と適切な時価との間に「著しい乖離」が存在すると税務当局に認定された場合、「財産評価基本通達」による評価方法を適用せず、適切な時価をもって課税するという判断が下されるケースが増加しています。これにより、従来の「節税対策」として有効とされてきた手法が、税務当局によって否定され、結果として多額の追徴課税を招くリスクが顕在化しています。
2. 「合理性」と「事業実態」に裏打ちされた評価戦略
この変化は、単に従来の自社株評価額を下げることだけを目的とした安易な対策では通用しない時代になったことを示しています。
真に有効な事業承継対策を立案するためには、最新の法令、判例、裁決例を深く理解し、その精神に則った「事業の実態に即した、合理的な理由のある」対策を実行することが、リスク回避の観点からも極めて重要になっています。株価対策を講じる際には、それが「租税回避行為」とみなされないか、「著しい乖離」が存在すると認定されないかという点も同時に検討しなければなりません。
当事務所では、常に最新の判例等を考慮し、税務・法務の両面から、対策の合理性と適法性を徹底的に検証します。
また、税負担の最適化を図る上で強力な選択肢となるのが、「事業承継税制」(非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度)の特例措置です。この制度は、要件が複雑かつ厳格であり、その適用判断や継続要件の遵守には高度な専門知識が求められます。当事務所は、この特例措置の適用可能性を慎重に判断し、適用後の厳格な要件維持までを視野に入れた、持続可能な税負担の最適化戦略をご提案いたします。
III. 特徴3:事業継続性の確保(フルオーダーメイドの実行支援)
1. 事業承継の「Who, When, How」を明確化する
事業承継の最終目的は、企業を永続させ、オーナー経営者が築き上げた価値を守り発展させることです。この目的を達成するために、当事務所はまず「事業継続性の確保」という観点から、以下の根本的な問いに答えるための戦略を明確化します。
- Who(誰に): 親族内承継、役員・従業員への承継、M&Aによる第三者承継など、最適な後継者候補の検討と育成計画。
- When(いつ): 理想的な承継のタイミング(税制改正、経営者の健康状態、企業の業績、後継者の準備状況)の設定。
- How(どうやって): 株式の異動方法、株主構成の最適化(種類株式など)の検討。
特に親族内承継においては、種類株式の利用、信託スキーム、自己株式の取得も検討します。
結び:3つの視点を融合させたフルオーダーメイドの総合案
当事務所では、これまでに述べた3つの柱、すなわち「相続の円満化」「税負担の最適化」「事業継続性の確保」をバラバラに検討するのではなく、有機的に融合させたフルオーダーメイドの承継案を提示します。
オーナー経営者の想い、企業の永続性、そしてご家族の将来を守るためには、事業承継・相続の経験値が高い専門家による、公平中立かつ高度な専門性を備えたサポートが不可欠です。当事務所は、その実現のため、最適なソリューションと実行力をご提供することをお約束します。