税理士 大河原真吾
東京税理士会麴町支部 登録番号:153981
この記事の執筆者:税理士 大河原真吾
一般家庭の相続税申告とオーナー経営者の事業承継・相続税申告に豊富な経験を持つ。特に土地の相続税評価額の減少と事業承継のスキーム構築を強みとする。お客様の意向を最大限に尊重したオーダーメイドなサービスを提供し、適正な料金でお客様に寄り添うことをモットーとする。
目次
相続税の配偶者控除
相続が発生した際、遺産を承継する配偶者がいる場合、相続税を大きく抑えることができる「相続税の配偶者控除」という規定があります(正式名称は、配偶者の税額の軽減。)。この制度は、夫婦が長年かけて築いた財産を次世代に円滑に引き継ぐことや、残された配偶者の生活を保障することを目的として設けられています。しかし、この特例を適用するためにはいくつかの要件を満たす必要があり、また、適用にあたっては二次相続だけでなく一次相続において他の相続人が取得した土地等についても考慮した慎重な検討が不可欠です。本稿では、相続税の配偶者控除の制度概要、適用要件、そして適用する上での注意点について、専門家の視点から解説します。
1. 相続税の配偶者控除とは
相続税の配偶者控除とは、相続税法第19条の2に定められている規定で、被相続人(亡くなった方)の配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分相当額か1億6,000万円のいずれか多い金額までは、相続税が課税されないというものです。この規定は、配偶者が取得する遺産が非常に多額であったとしても適用できるため、相続税額の軽減に絶大な効果を発揮します。
具体的には、相続財産が3億円であった場合、配偶者が法定相続分である2分の1の1億5,000万円を取得すると、相続税は課税されません。また、配偶者が全ての財産である3億円を相続した場合でも、1億6,000万円までは税額がゼロとなり、残りの1億4,000万円に対してのみ相続税が課税されます。このように、配偶者は大きな非課税枠を享受できるのです。
2. 相続税の配偶者控除の適用要件
この強力な規定を適用するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
(1) 法律上の配偶者であること
この規定の適用対象となるのは、民法上の配偶者に限られます。内縁の妻や夫、事実婚の相手は対象外となります。
(2) 遺産分割が確定していること
配偶者が実際にどの財産を、いくら取得するかが確定している必要があります。遺産分割協議が整い、遺産分割協議書が作成されている状態が必要です。ただし、相続税の申告期限(被相続人が亡くなった日から10ヶ月以内)までに遺産分割が確定していない場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、3年以内に遺産分割ができれば更正の請求で相続税の配偶者控除を適用することが出来ます。
(3) 相続税の申告書を提出していること
相続税の配偶者控除の規定を適用するためには、たとえ相続税額がゼロになったとしても、必ず申告書を提出する必要があります。申告を怠ると、この規定は適用されません。
3. 相続税の配偶者控除を適用する際の注意点
(1) 二次相続の考慮
「二次相続」とは、被相続人の配偶者が亡くなった際に発生する相続のことです。一次相続で相続税の配偶者控除を最大限活用し、配偶者が多くの財産を相続すると、一次相続での納税額は少なくなります。しかし、その結果として配偶者の財産が増え、将来の二次相続の際に、相続税が高くなる可能性があります。
二次相続では、相続税の配偶者控除が利用できません。また、相続人の数が少なくなるため、基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)も少なくなるのが一般的です。このため、一次相続で配偶者に財産を集中させすぎると、トータルでの相続税額が高くなる可能性があります。
(2) 小規模宅地等の特例との関係
遺産の中に小規模宅地等の特例の適用を受けられる土地がある場合は、注意が必要です。この特例は、居住用の土地や事業用の土地を相続する場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる強力な特例です。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は併用可能です。つまり、配偶者が取得する土地に小規模宅地等の特例を適用しなくても、配偶者が取得する財産の評価額が1億6,000万円までの場合、他の相続人が、取得する土地に小規模宅地等の特例の適用を受けた方が、相続税額を軽減することができます。
4. 仮装・隠蔽行為があった場合の取り扱い
相続税の配偶者控除は、あくまで適正な申告に基づき適用される規定です。相続財産の一部を意図的に隠したり、仮装したりといった不正行為があった場合、相続税の配偶者控除の規定が適用されなくなります。その結果、その財産にかかる相続税が全額課税されることになります。
5. まとめ
相続税の配偶者控除は、残された配偶者の生活を保障し、円滑な財産承継を促すための重要な規定です。しかし、この規定の真の価値は、一次相続時における小規模宅地等の特例との関係と、二次相続まで見据えた計画的な活用によって最大限に引き出されます。
単に税額をゼロにするだけでなく、将来の家族全体の税負担を最小限に抑えるための総合的な視点が求められます。遺産分割協議を行う際には、専門家である税理士に相談し、二次相続を見据えた最適なプランを検討することをお勧めします。そうすることで、大切な家族に安心して財産を引き継ぐことができるでしょう。





